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2023年2月7日

C言語でlongをintにキャストしたらどうなるの?

目次: C言語とlibc

最近RISC-V 64bit向けのLinuxシステムコールの実装を調べていました(2023年2月1日の日記など)。そのなかでlong型をintにキャストし、負の値として解釈している部分がありました。

C言語に詳しい方は「あれ?」と思ったかもしれません。一見して問題なさそうな操作ですが、C言語の仕様によれば結果は実装依存(implementation-defined)です。アーキテクチャやコンパイラ次第で結果が変わるということです。

条件はlongよりintの方が大きい(sizeof(long) > sizeof(int) になる)ときです。現代では64bit環境が該当するでしょう。32bit環境は大抵longとintが同じ値域なので問題は発生しません。

概要をお伝えしたところで、言語仕様を見てみましょう。

N1570 (C11 committee draft) 6.3.1.3の定義とざっくり和訳
6.3.1.3 Signed and unsigned integers

When a value with integer type is converted to another integer type other than
_Bool, if the value can be represented by the new type, it is unchanged.

Otherwise, if the new type is unsigned, the value is converted by repeatedly
adding or subtracting one more than the maximum value that can be represented
in the new type until the value is in the range of the new type.

Otherwise, the new type is signed and the value cannot be represented in it;
either the result is implementation-defined or an implementation-defined signal
is raised.


(ざっくり和訳)

整数型の値が _Bool以外の整数型に変換される場合、もし値が新しい型で表現できるなら
値は変化しません。

新しい型が符号なしで表現できないならば、新しい型の範囲に入るまで、新しい型が表現できる
最大値より1多い値を繰り返し加算または減算して値を変換します。

(訳注)
パディング等も認められているのでややこしい言い方になっている。
元の型が32bit整数で0x2_3456、新しい型が16bit整数で最大値0xffffだとする。
このとき新しい型の最大値 + 1 = 0x1_0000である。

元の型の値0x2_3456は新しい型の範囲より大きいので、最大値 + 1を減算し続ける。
・0x2_3456 - 0x1_0000 = 0x1_3456 → 新しい型の範囲に入っていない
・0x1_3456 - 0x1_0000 = 0x0_3456 → 新しい型の範囲に入った
よって新しい型の値は0x3456となる。

この処理は新しい型から溢れた上位ビット(つまりこの例でいえば16bit以上の上位ビット)を
全て0クリアする処理に相当する。
(訳注、終わり)

新しい型が符号付きで値を表現できないならば、結果は実装定義になるか、もしくは実装定義の
シグナルが生成されます。

Linuxは対象とするアーキテクチャとコンパイラが限定(GCCかClang)されており、実装依存の動きを把握した上で使っていると思われます。承知の上というやつですね。

どの実装で使われるかわからないコードを書くなら、longからintへのキャストは常に結果が同じとは限らないので、キャストの結果で何が起きるか理解して使う必要があります。

気にしすぎても仕方がない

建前は上記の通りですが「全てのCコンパイラで動作するコード」を書く機会って、ほぼないと思います。基本的には細かい仕様を気にしすぎて何も進まなくなるより、時代で受け入れられる常識的な制約を付けて進めて、後で困ったら直せば良いんじゃない?と思います。

一方で2038年問題のように、プログラムが書かれた時代は常識的な制約だったしみんな使っていたけど、何十年も経ってから大問題になるケースもあります。「常識的な制約 = ずっと無罪放免」かどうかは誰にもわかりません。

今の64bitアーキテクチャに由来する時間や容量の制約は十分余裕があると思われますが、100年後の世界なんてわかりません。「誰が64bit決め打ちの実装にした!?100年前の奴らだと……??」って泣きながら直している人がいても不思議じゃないですよね。

編集者:すずき(2023/04/18 02:13)

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2023年2月6日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その6 - SYSCALL_DEFINE() を全部展開

目次: RISC-V

昨日の続きです。「64bit環境においてシステムコールの引数がレジスタ長(= 64bit)以下だった場合(例えばintが典型例)、どう扱うか?」コードの解説編です。

どうして符号拡張されるのか?逆アセンブルで説明したつもりになってはいけない、逃げてはダメだ!という熱心なあなたのために、マクロを展開しながら説明します。今回の解説は __MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロの意味や実装です。

SYSCALL_DEFINE() の展開

今までのSYSCALL_DEFINE(), __MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロを全部合体させて展開して、組み込み関数などを外すとこうなるはずです。

rebootシステムコールの実装部分、最終形

asmlinkage long __se_sys_reboot(__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg))
{
	long ret = __do_sys_reboot(__MAP(4,__SC_CAST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	__MAP(4,__SC_TEST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg);
	__PROTECT(4, ret,__MAP(4,__SC_ARGS,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	return ret;
}

↓こうなる

asmlinkage long __se_sys_reboot(long magic1, long magic2, long cmd, long arg)
{
	long ret = __do_sys_reboot((int)magic1, (int)magic2, (unsigned int)cmd, (void __user *)arg));
	//__SC_TEST() による型のチェック、チェックに引っかかったらコンパイルエラー
	//__PROTECT(magic1, magic2, cmd, arg) に展開されるがRISC-V 64bitでは何も意味はない
	return ret;
}

つまり __se_sys_reboot() ではシステムコールからの引数はlong long, unsigned long longを除いて常にlong型の引数として扱い(__SC_LONGマクロの働き)、システムコールの本体 __do_sys_reboot() にはシステムコールが定義する本来の型にキャストして渡します(__SC_CASTマクロの働き)。

例えばmusl libcのreboot() のmagic1にあたるレジスタa0には0x00000000_fee1deadが渡されます。longの値として解釈すると正の数4276215469ですが、__do_sys_reboot() の呼び出し時にintにキャストして渡すため0xfee1dead = -18751827であると解釈されます(たぶん、大抵は)。

キャストされた負のint型の値を __do_sys_reboot() はlong型の引数で受け取ります。このときlong型で -18751827と解釈される値(= 0xfee1deadを64bitに符号拡張した0xffffffff_fee1dead)をレジスタa0に格納して、関数呼び出しを行います。

__do_sys_reboot() のmagic1引数の値(再掲)
(gdb) b __do_sys_reboot
Breakpoint 1 at 0xffffffff8002d860: file kernel/reboot.c, line 702.

(gdb) c
Continuing.

Breakpoint 1, __do_sys_reboot (magic1=-18751827, magic2=672274793,
    cmd=1126301404, arg=0x4321fedc) at kernel/reboot.c:702
702     {

(gdb) p/x $a0
$1 = 0xfffffffffee1dead

なので __do_sys_reboot() でブレークしてレジスタa0の内容を表示すると、0xffffffff_fee1deadになっていたわけです。

いやー長かった。マクロの魔術ですね。

編集者:すずき(2023/02/06 00:02)

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2023年2月5日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その5 - __MAP(), __SC_X() マクロの展開

目次: RISC-V

昨日の続きです。「64bit環境においてシステムコールの引数がレジスタ長(= 64bit)以下だった場合(例えばintが典型例)、どう扱うか?」コードの解説編です。

どうして符号拡張されるのか?逆アセンブルで説明したつもりになってはいけない、逃げてはダメだ!という熱心なあなたのために、マクロを展開しながら説明します。今回の解説は __MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロの展開結果です。

__MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロの合わせ技

今まで説明してきた __MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロを総動員して全部展開すると、

__MAP4(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロの展開結果の例

__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)

↓

__SC_LONG(int, magic1),
__SC_LONG(int, magic2),
__SC_LONG(unsigned int, cmd),
__SC_LONG(void __user *, arg)

↓

long magic1,
long magic2,
long cmd,
long arg


__MAP(4,__SC_CAST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)

↓

__SC_CAST(int, magic1),
__SC_CAST(int, magic2),
__SC_CAST(unsigned int, cmd),
__SC_CAST(void __user *, arg)

↓

(int)magic1,
(int)magic2,
(unsigned int)cmd,
(void __user *)arg

になります。他のマクロ __SC_TEST() と __SC_ARGS() と __PROTECT() は本筋ではないので詳細は省きますが、下記のような実装です。

__SC_TEST(), __SC_ARGS(), __PROTECT() マクロの実装

// linux/include/linux/syscalls.h

#define __SC_TEST(t, a) (void)BUILD_BUG_ON_ZERO(!__TYPE_IS_LL(t) && sizeof(t) > sizeof(long))

#define __SC_ARGS(t, a)	a

#define __PROTECT(...) asmlinkage_protect(__VA_ARGS__)


// linux/include/linux/build_bug.h

/*
 * Force a compilation error if condition is true, but also produce a
 * result (of value 0 and type int), so the expression can be used
 * e.g. in a structure initializer (or where-ever else comma expressions
 * aren't permitted).
 */
#define BUILD_BUG_ON_ZERO(e) ((int)(sizeof(struct { int:(-!!(e)); })))


// linux/include/linux/linkage.h

#ifndef __ASSEMBLY__
#ifndef asmlinkage_protect
# define asmlinkage_protect(n, ret, args...)	do { } while (0)
#endif
#endif

展開するとこうなります。

__SC_TEST(), __SC_ARGS(), __PROTECT() マクロの展開の例

__SC_TEST(AAA, BBB)

// AAAがlong longでもunsigned long longでもない型で、
// long型より大きい型(構造体とかが該当する)の場合に、
// コンパイルエラーにする。


__SC_ARG(AAA, BBB)

↓

BBB


__PROTECT(n, ret, args...)

↓

// m68kアーキテクチャでは引数をスタックに置かないようにする役目のコードになるらしい。
// 他のアーキテクチャでは下記のようになって何も意味はない。
do { } while (0)

これで不明な要素は全てなくなったはずです。続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/02/05 03:39)

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2023年2月4日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その4 - __MAP(), __SC_X() マクロの実装

目次: RISC-V

昨日の続きです。「64bit環境においてシステムコールの引数がレジスタ長(= 64bit)以下だった場合(例えばintが典型例)、どう扱うか?」コードの解説編です。

どうして符号拡張されるのか?逆アセンブルで説明したつもりになってはいけない、逃げてはダメだ!という熱心なあなたのために、マクロを展開しながら説明します。今回の解説は __MAP(), __SC_LONG(), __SC_CAST() マクロの意味や実装です。

任意の引数に変換を掛ける __MAP() マクロ

鍵となるのは __MAP(4, ...) の展開後に出てくる __MAP4(m, t, a, ...) というマクロです。

__MAP() マクロの実装

// linux/include/linux/syscalls.h

/*
 * __MAP - apply a macro to syscall arguments
 * __MAP(n, m, t1, a1, t2, a2, ..., tn, an) will expand to
 *    m(t1, a1), m(t2, a2), ..., m(tn, an)
 * The first argument must be equal to the amount of type/name
 * pairs given.  Note that this list of pairs (i.e. the arguments
 * of __MAP starting at the third one) is in the same format as
 * for SYSCALL_DEFINE<n>/COMPAT_SYSCALL_DEFINE<n>
 */
#define __MAP0(m,...)
#define __MAP1(m,t,a,...) m(t,a)
#define __MAP2(m,t,a,...) m(t,a), __MAP1(m,__VA_ARGS__)
#define __MAP3(m,t,a,...) m(t,a), __MAP2(m,__VA_ARGS__)
#define __MAP4(m,t,a,...) m(t,a), __MAP3(m,__VA_ARGS__)
#define __MAP5(m,t,a,...) m(t,a), __MAP4(m,__VA_ARGS__)
#define __MAP6(m,t,a,...) m(t,a), __MAP5(m,__VA_ARGS__)
#define __MAP(n,...) __MAP##n(__VA_ARGS__)

マクロに渡された型tと引数aリストのペアを1つずつm(t, a) のようにmで変換を掛けるマクロですが、イメージしづらいと思うので展開結果を載せます。

__MAP() マクロの展開結果の例

__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)

↓

__MAP4(__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)

↓

__SC_LONG(int, magic1),
__SC_LONG(int, magic2),
__SC_LONG(unsigned int, cmd),
__SC_LONG(void __user *, arg)

実装はぱっと見では良くわかりませんが、展開結果はわかりやすいですね。

キャストの要、__SC_LONG(), __SC_CAST() マクロ

先頭の展開結果 __SC_LONG(int, magic1) に着目します。

__SC_LONG() マクロの実装

// linux/include/linux/syscalls.h

#define __SC_LONG(t, a) __typeof(__builtin_choose_expr(__TYPE_IS_LL(t), 0LL, 0L)) a

#define __TYPE_AS(t, v)	__same_type((__force t)0, v)
#define __TYPE_IS_LL(t) (__TYPE_AS(t, 0LL) || __TYPE_AS(t, 0ULL))


// linux/include/linux/compiler_types.h

#define __same_type(a, b) __builtin_types_compatible_p(typeof(a), typeof(b))

# define __force

ここまでの実装を踏まえて展開すると下記のようになります。

__SC_LONG() マクロの展開結果の例

__SC_LONG(int, magic1),

↓ __TYPE_IS_LL() を展開

__typeof(
  __builtin_choose_expr(
    (__same_type((int)0, 0LL) ||
     __same_type((int)0, 0ULL)), 0LL, 0L))
      magic1,

↓ __same_typeを展開

__typeof(
  __builtin_choose_expr(
    (__builtin_types_compatible_p(typeof((int)0), typeof(0LL)) ||
     __builtin_types_compatible_p(typeof((int)0), typeof(0ULL))), 0LL, 0L))
       magic1,

最内側の__same_type() は引数に渡した値の型を比較するマクロです。マクロで使用する __builtin_types_compatible_p() は1つ目と2つ目の型が同じかどうか?をintで返す組み込み関数、typeof() は引数の型を返すキーワードです(関数ではないので値は返しません)。

従って__same_type((int)0, 0LL) はintと0LLの型、int型とlong long int型が等しいか比較しています。当然、等しくありません。ちなみにintは __SC_LONG(int, magic1) の最初の引数intから来たことを思い出していただけると嬉しいです。例えば __SC_LONG(long long, magic1) であれば比較結果は等しいと判断されるでしょう。

最内側の条件式 __same_type((int)0, 0LL) || __same_type((int)0, 0ULL)) の部分は型がlong longもしくはunsigned long longかどうか?を調べています。

判断結果を受け取る__builtin_choose_expr(const_exp, exp1, exp2) は、const_expが真なら、exp1を返し、偽ならexp2を返す組み込み関数です。もしconst_expがコンパイル時に判定できなければ、コンパイルエラーです。

以上をまとめると __SC_LONG(AAA, BBB) は、

  • AAAがlong longもしくはunsigned long longならlong long BBB
  • AAAがそれ以外の型ならばlong BBB

という働きをします。また __SC_CAST() はその名の通りキャストを生成します。

__SC_CAST() マクロの実装

// linux/include/linux/syscalls.h

#define __SC_CAST(t, a)	(__force t) a

です。長いですね。続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/02/04 00:56)

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2023年2月3日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その3 - SYSCALL_DEFINEマクロ

目次: RISC-V

昨日の続きです。「64bit環境においてシステムコールの引数がレジスタ長(= 64bit)以下だった場合(例えばintが典型例)、どう扱うか?」コードの解説編です。

どうして符号拡張されるのか?逆アセンブルで説明したつもりになってはいけない、逃げてはダメだ!という熱心なあなたのために、マクロを展開しながら説明します。今回の解説はSYSCALL_DEFINE4() たった1行です。

rebootシステムコールの実装

// linux/kernel/reboot.c

SYSCALL_DEFINE4(reboot, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd,
		void __user *, arg)
{

...


// linux/include/linux/syscalls.h

#define SYSCALL_DEFINE4(name, ...) SYSCALL_DEFINEx(4, _##name, __VA_ARGS__)

#define SYSCALL_DEFINEx(x, sname, ...)				\
	SYSCALL_METADATA(sname, x, __VA_ARGS__)			\
	__SYSCALL_DEFINEx(x, sname, __VA_ARGS__)

下記のように展開されます。

SYSCALL_DEFINE4() の展開結果

SYSCALL_METADATA(_reboot, 4, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)
__SYSCALL_DEFINEx(4, _reboot, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)

SYSCALL_METADATA() の方は関数の実体と無関係なので今回は無視して、__SYSCALL_DEFINEx() を見ます。

__SYSCALL_DEFINEx() マクロの実装

// linux/include/linux/syscalls.h

/*
 * The asmlinkage stub is aliased to a function named __se_sys_*() which
 * sign-extends 32-bit ints to longs whenever needed. The actual work is
 * done within __do_sys_*().
 */
#ifndef __SYSCALL_DEFINEx
#define __SYSCALL_DEFINEx(x, name, ...)					\
	__diag_push();							\
	__diag_ignore(GCC, 8, "-Wattribute-alias",			\
		      "Type aliasing is used to sanitize syscall arguments");\
	asmlinkage long sys##name(__MAP(x,__SC_DECL,__VA_ARGS__))	\
		__attribute__((alias(__stringify(__se_sys##name))));	\
	ALLOW_ERROR_INJECTION(sys##name, ERRNO);			\
	static inline long __do_sys##name(__MAP(x,__SC_DECL,__VA_ARGS__));\
	asmlinkage long __se_sys##name(__MAP(x,__SC_LONG,__VA_ARGS__));	\
	asmlinkage long __se_sys##name(__MAP(x,__SC_LONG,__VA_ARGS__))	\
	{								\
		long ret = __do_sys##name(__MAP(x,__SC_CAST,__VA_ARGS__));\
		__MAP(x,__SC_TEST,__VA_ARGS__);				\
		__PROTECT(x, ret,__MAP(x,__SC_ARGS,__VA_ARGS__));	\
		return ret;						\
	}								\
	__diag_pop();							\
	static inline long __do_sys##name(__MAP(x,__SC_DECL,__VA_ARGS__))
#endif /* __SYSCALL_DEFINEx */

長いマクロですね。rebootシステムコールの宣言部分 __SYSCALL_DEFINE4(reboot, ...) は下記のように展開されます。

SYSCALL_DEFINE4() の展開結果

SYSCALL_DEFINE4(reboot, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd,
		void __user *, arg)

↓

__diag_push();

__diag_ignore(GCC, 8, "-Wattribute-alias", "Type aliasing is used to sanitize syscall arguments");

asmlinkage long sys_reboot(__MAP(4,__SC_DECL,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg)) __attribute__((alias(__stringify(__se_sys_reboot))));

ALLOW_ERROR_INJECTION(sys_reboot, ERRNO);

static inline long __do_sys_reboot(__MAP(4,__SC_DECL,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));

asmlinkage long __se_sys_reboot(__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));

asmlinkage long __se_sys_reboot(__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg))
{
	long ret = __do_sys_reboot(__MAP(4,__SC_CAST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	__MAP(4,__SC_TEST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg);
	__PROTECT(4, ret,__MAP(4,__SC_ARGS,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	return ret;
}

__diag_pop();

static inline long __do_sys_reboot(__MAP(4,__SC_DECL,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));

色々興味深い部分(__diag_push, __diag_ignore, などなど)はありますが、関数と関係ないので無視して、符号拡張を行う __se_sys_reboot() の実装部分を見ます。

SYSCALL_DEFINE4() の関数実装部分の抜粋

asmlinkage long __se_sys_reboot(__MAP(4,__SC_LONG,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg))
{
	long ret = __do_sys_reboot(__MAP(4,__SC_CAST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	__MAP(4,__SC_TEST,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg);
	__PROTECT(4, ret,__MAP(4,__SC_ARGS,int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd, void __user *, arg));
	return ret;
}

この関数本体の部分がどう展開されるかを見ます。続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/02/03 09:57)

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2023年2月2日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その2 - Linuxの動作

目次: RISC-V

昨日の続きです。64bit Linux環境のreboot() はmagicの符号拡張をしてもしなくても正常に動くという話をしました。

この話はrebootには限らないので、もっと一般化すると「64bit環境においてシステムコールの引数がレジスタ長(= 64bit)以下だった場合(例えばintが典型例)、どう扱うか?」となります。

動作を確認するにはデバッガで追えば早いでしょう。RISC-V 64bit向けに、

  • musl libcを使うツールチェーン(後述)
  • GNU libcを使うツールチェーン(後述)
  • linux
  • busybox
  • QEMU

を用意して起動します。符号拡張を行わないmusl libc版のツールチェーンでbusyboxをビルドしてQEMU起動、GDBでアタッチします。

QEMUの起動、GDBからのアタッチ
$ qemu-system-riscv64 \
  -machine virt \
  -net none \
  -nographic \
  -chardev stdio,id=con,mux=on \
  -serial chardev:con -mon chardev=con,mode=readline \
  -kernel linux/arch/riscv/boot/Image \
  -initrd busybox/initramfs.cpio \
  -s


$ riscv64-unknown-linux-gnu-gdb linux/vmlinux

(gdb) target remote :1234

...

Linuxのシステムコールの実装は下記のようになります。SYSCALL_DEFINE() とはなんぞや?というところが気になると思いますが、今はひとまずシステムコール名の頭に __do_sys_ を付けた関数が定義されると理解しておけば大丈夫です。

Linuxのrebootシステムコールの実装


//linux/kernel/reboot.c

SYSCALL_DEFINE4(reboot, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd,
		void __user *, arg)
{

...

ブレークポイントを __do_sys_rebootに仕掛けてQEMU側のコンソールでbusybox poweroffコマンドを実行します。

__do_sys_reboot() のmagic1引数の値(符号拡張されている)
(gdb) b __do_sys_reboot
Breakpoint 1 at 0xffffffff8002d860: file kernel/reboot.c, line 702.

(gdb) c
Continuing.

Breakpoint 1, __do_sys_reboot (magic1=-18751827, magic2=672274793,
    cmd=1126301404, arg=0x4321fedc) at kernel/reboot.c:702
702     {

(gdb) p/x $a0
$1 = 0xfffffffffee1dead

システムコールの引数は負の数(つまり0xffffffff_fee1dead)となっています。この関数に辿り着く前に符号拡張されるようです。

バックトレース表示
(gdb) bt
#0  __do_sys_reboot (magic1=-18751827, magic2=672274793, cmd=1126301404,
    arg=0x4321fedc) at kernel/reboot.c:702
#1  0xffffffff8002dab2 in __se_sys_reboot (magic1=<optimized out>,
    magic2=<optimized out>, cmd=<optimized out>, arg=<optimized out>)
    at kernel/reboot.c:700
#2  0xffffffff80002fe2 in handle_exception () at arch/riscv/kernel/entry.S:231
Backtrace stopped: frame did not save the PC

バックトレースを見ると__se_sys_reboot() という関数も呼ばれています。この関数を調べるためにブレークを掛けて再度実行します。

__se_sys_reboot() のmagic1引数の値(符号拡張なし)
(gdb) b __se_sys_reboot
Breakpoint 1 at 0xffffffff8002daa0: file kernel/reboot.c, line 700.

(gdb) c
Continuing.

Breakpoint 1, __se_sys_reboot (magic1=4276215469, magic2=672274793,
    cmd=1126301404, arg=1126301404) at kernel/reboot.c:700
700     SYSCALL_DEFINE4(reboot, int, magic1, int, magic2, unsigned int, cmd,

(gdb) p/x $a0
$1 = 0xfee1dead

システムコール例外ハンドラに渡ってきた引数magicはレジスタa0に入っていて、値は0xfee1deadです。__do_sys_reboot() や __se_sys_reboot() 関数を定義するSYSCALL_DEFINE() はマクロのため、デバッガから見てもソースコードが表示されません。

不思議なSYSCALL_DEFINE() マクロの仕組みは後日調べるとして、とりあえず今は逆アセンブルします。

__se_sys_reboot() の逆アセンブル
(gdb) disas
Dump of assembler code for function __se_sys_reboot:
=> 0xffffffff8002daa0 <+0>:     addi    sp,sp,-16
   0xffffffff8002daa2 <+2>:     sd      s0,0(sp)
   0xffffffff8002daa4 <+4>:     sd      ra,8(sp)
   0xffffffff8002daa6 <+6>:     addi    s0,sp,16
   0xffffffff8002daa8 <+8>:     sext.w  a2,a2    ★
   0xffffffff8002daaa <+10>:    sext.w  a1,a1    ★
   0xffffffff8002daac <+12>:    sext.w  a0,a0    ★
   0xffffffff8002daae <+14>:    jal     ra,0xffffffff8002d860 <__do_sys_reboot>
   0xffffffff8002dab2 <+18>:    ld      ra,8(sp)
   0xffffffff8002dab4 <+20>:    ld      s0,0(sp)
   0xffffffff8002dab6 <+22>:    addi    sp,sp,16
   0xffffffff8002dab8 <+24>:    ret

RISC-Vのアセンブラを見たことない方のために補足すると、sext.wという命令はRISC-Vの符号拡張命令です。また引数はa0, a1, a2, a3, a4, a5レジスタを経由して渡されます。すなわち __se_sys_reboot() 関数はa0, a1, a2レジスタ(引数magic1, magic2, cmdに相当)を符号拡張して __do_sys_reboot() 関数に渡しています。

ここで当初の疑問が解消しますね。疑問の内容は下記の通りで、

  • magic1に0xffffffff_fee1deadを渡す派(GNU libc)→ 符号拡張するが値は変わらず
  • magic1に0x00000000_fee1deadを渡す派(musl libc)→ 符号拡張して0xffffffff_fee1deadにする

答えは途中で符号拡張しているのでどちらでも問題なかった、というわけです。なるほどね。

補足: ツールチェーンの準備

ツールチェーンのビルドはcrosstool-NGなどでもできますし、面倒な場合はGitHubにUbuntu 20.04用の *.debファイルを置いたのでお使いください。

GNU libcの場合は、

またmusl libcの場合は、

をお使いください。

編集者:すずき(2023/02/02 21:07)

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2023年2月1日

RISC-V 64bit Linuxとシステムコールと32bitの引数 その1 - libcの実装

目次: RISC-V

タイトルに反して実はRISC-Vはあまり関係ないですが……。GNU libcとmusl libcの実装を見ていたら、64bit環境でrebootシステムコールの引数magicに、

  • 0x00000000_fee1deadを渡す派(musl libc)
  • 0xffffffff_fee1deadを渡す派(GNU libc)

がいることに気づきました。

musl libcとGNU libcの実装

Cライブラリのrebootの関数宣言はint reboot(int cmd) となっています。musl libcの場合0xfee1deadをキャストせずlong型の引数に渡します。符号拡張は行われず0x00000000_fee1deadがシステムコールの引数に渡されます。

musl libcのreboot() の実装

// musl/src/linux/reboot.c

int reboot(int type)
{
	return syscall(SYS_reboot, 0xfee1dead, 672274793, type);
}


// musl/arch/riscv64/syscall_arch.h

static inline long __syscall3(long n, long a, long b, long c)
{
	register long a7 __asm__("a7") = n;
	register long a0 __asm__("a0") = a;
	register long a1 __asm__("a1") = b;
	register long a2 __asm__("a2") = c;
	__asm_syscall("r"(a7), "0"(a0), "r"(a1), "r"(a2))
}

一方のGNU libcの場合は、0xfee1deadをintにキャストしてからシステムコールに渡します。この値は負の数なので符号拡張が行われて0xffffffff_fee1deadがシステムコールの引数に渡されます。

GNU libcのreboot() の実装

// glibc/sysdeps/unix/sysv/linux/reboot.c

/* Call kernel with additional two arguments the syscall requires.  */
int
reboot (int howto)
{
  return INLINE_SYSCALL (reboot, 3, (int) 0xfee1dead, 672274793, howto);
}


// glibc/sysdeps/unix/sysv/linux/riscv/sysdep.h

# define internal_syscall3(number, arg0, arg1, arg2)      		\
({ 									\
	long int _sys_result;						\
	long int _arg0 = (long int) (arg0);				\
	long int _arg1 = (long int) (arg1);				\
	long int _arg2 = (long int) (arg2);				\
									\
	{								\
	register long int __a7 asm ("a7") = number;			\
	register long int __a0 asm ("a0") = _arg0;			\
	register long int __a1 asm ("a1") = _arg1;			\
	register long int __a2 asm ("a2") = _arg2;			\
	__asm__ volatile ( 						\
	"scall\n\t" 							\
	: "+r" (__a0)							\
	: "r" (__a7), "r" (__a1), "r" (__a2)				\
	: __SYSCALL_CLOBBERS); 						\
	_sys_result = __a0;						\
	}								\
	_sys_result;							\
})

最初に気づいたときはどちらかがバグっている……?と勘違いしましたが、当たり前ですがどちらも正常に動きます。すなわちLinux側で何か対応しているはずです。続きはまた今度。

編集者:すずき(2023/02/20 23:39)

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2023年1月27日

LXDE + GTKで日本語と英語を混ぜるとズレる(続き)

目次: Linux

昨日(2023年1月26日の日記参照)の続きです。タイトルに「日本語 → 英語」の順の文字列を表示させると英語がズレてしまう問題についてです。

ルック&フィールの設定からフォントを変えて試したところ、源ノ角ゴシックの一部の太さ(Normalのみ)でこの問題が発生することが分かりました。実際に見てもらった方が分かりやすいと思います。


源ノ角ゴシックJP Normal(英語が上にズレる)


源ノ角ゴシックJP Regular(英語がズレない)

原因が良くわからないままですが、とりあえず源ノ角ゴシックを使うならNormal以外の太さを選択することで英語が上にズレてしまう問題を回避できそうです。

NormalだろうがRegularだろうが同じフォントだと思っていたんですけど、何か違うんでしょうか??フォントのレンダリングは良くわからないね……。

編集者:すずき(2024/01/13 14:30)

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2023年1月26日

LXDE + GTKで日本語と英語を混ぜるとズレる

目次: Linux

タイトルのままなのですが、普段使いしているLinux環境(Debian Testing, LXDE)にて英語の位置がたまにズレていることがあります。どういうときにズレるのか気になったので、いくつかパターンを試しました。残念ながら原因や直し方までは調べていないので良くわかりません。

結論を先に書いておくと、日本語のあとに英語を書くとズレます。英語のあとに日本語を書いてもズレません。不思議ですね。


タイトルに日本語のみ表示


タイトルに英語、日本語の順で表示


タイトルに英語、日本語、英語の順で表示


タイトルに日本語、英語の順で表示(英語が上にズレる)

この画像をキャプチャしているときに気が付いたのですが、Leafpadのテキストボックスでも同じ現象が発生していました。


Leafpadのテキストボックスも同様の現象

何なんでしょうね?GTK+ の仕様なんでしょうか?

編集者:すずき(2024/01/13 14:31)

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