目次: Zephyr
前回は、新しい形式のコンテキストスイッチ関数arch_switch() のラッパー関数まで実装しました。RISC-V向け実装をする前に、既に新しいコンテキストスイッチ関数に対応しているAArch64の実装を調べます。
コンテキストスイッチ処理の共通部分(do_swap())から、アーキテクチャ依存部分(AArch64のarch_switch())に至るまでを見ます。
// zephyr/kernel/include/kswap.h
/* New style context switching. arch_switch() is a lower level
* primitive that doesn't know about the scheduler or return value.
* Needed for SMP, where the scheduler requires spinlocking that we
* don't want to have to do in per-architecture assembly.
*
* Note that is_spinlock is a compile-time construct which will be
* optimized out when this function is expanded.
*/
static ALWAYS_INLINE unsigned int do_swap(unsigned int key,
struct k_spinlock *lock,
int is_spinlock)
{
...
if (new_thread != old_thread) {
#ifdef CONFIG_TIMESLICING
z_reset_time_slice();
#endif
old_thread->swap_retval = -EAGAIN;
#ifdef CONFIG_SMP
_current_cpu->swap_ok = 0;
new_thread->base.cpu = arch_curr_cpu()->id;
if (!is_spinlock) {
z_smp_release_global_lock(new_thread);
}
#endif
sys_trace_thread_switched_out();
_current_cpu->current = new_thread;
wait_for_switch(new_thread);
arch_switch(new_thread->switch_handle,
&old_thread->switch_handle); //★コンテキストスイッチ★
}
...
前々回に紹介した新しいコンテキストスイッチの方式(arch_switch())を使っていることがわかります。
// zephyr/arch/arm/include/aarch64/arch_func.h
static inline void arch_switch(void *switch_to, void **switched_from)
{
z_arm64_call_svc(switch_to, switched_from); //★アセンブラ実装へ★
return;
}
// zephyr/arch/arm/core/aarch64/switch.S
GTEXT(z_arm64_call_svc)
SECTION_FUNC(TEXT, z_arm64_call_svc)
svc #_SVC_CALL_CONTEXT_SWITCH //★スーパーバイザーコール命令★
ret
アセンブラ側の実装では、いきなりスーパーバイザーコール命令(svc命令)をぶっ放して、スーパーバイザーコール例外を起こすだけになっています。AArch64は例外ハンドラ内でコンテキストスイッチを行う仕組みのようです。
関数arch_switch() はスレッドを2つ受け取ります。old_threadは切り替え元のスレッド、new_threadは切り替え先のスレッドです。old_thread -> new_threadにコンテキストスイッチするわけです。ただし直接スレッド構造体を受け取るわけではなく、若干クセのある渡し方をします。
第1引数new_thread->switch_handle(void * 型)は切り替え先のスレッド構造体へのポインタ(struct k_thread * 型)new_threadが入っています。このポインタをキャストするとnew_threadが求められます。
実はここには罠があり、何も実装せずにいるとnew_thread->switch_handleにはNULLが入ります。すると、あとでCONFIG_SMPを有効にした段階でwait_for_switch() 関数にてハングアップします。こんなのパッと見ではわかりません……。
// zephyr/kernel/include/kswap.h
/* New style context switching. arch_switch() is a lower level
* primitive that doesn't know about the scheduler or return value.
* Needed for SMP, where the scheduler requires spinlocking that we
* don't want to have to do in per-architecture assembly.
*
* Note that is_spinlock is a compile-time construct which will be
* optimized out when this function is expanded.
*/
static ALWAYS_INLINE unsigned int do_swap(unsigned int key,
struct k_spinlock *lock,
int is_spinlock)
{
...
if (new_thread != old_thread) {
...
sys_trace_thread_switched_out();
_current_cpu->current = new_thread;
wait_for_switch(new_thread); //★これ★
arch_switch(new_thread->switch_handle,
&old_thread->switch_handle);
}
if (is_spinlock) {
arch_irq_unlock(key);
} else {
irq_unlock(key);
}
return _current->swap_retval;
}
/* There is an unavoidable SMP race when threads swap -- their thread
* record is in the queue (and visible to other CPUs) before
* arch_switch() finishes saving state. We must spin for the switch
* handle before entering a new thread. See docs on arch_switch().
*
* Note: future SMP architectures may need a fence/barrier or cache
* invalidation here. Current ones don't, and sadly Zephyr doesn't
* have a framework for that yet.
*/
static inline void wait_for_switch(struct k_thread *thread)
{
#ifdef CONFIG_SMP
volatile void **shp = (void *)&thread->switch_handle;
while (*shp == NULL) { //★CONFIG_SMP有効でnew_thread->switch_handleがNULLだとこのループでハング★
k_busy_wait(1);
}
#endif
}
AArch64向けのスレッド作成する関数を良く見ると、しれっとswitch_handleを初期化しています。この処理はRISC-V向けには存在しないため、追加する必要がありそうです。
// zephyr/arch/arm/core/aarch64/thread.c
/*
* An initial context, to be "restored" by z_arm64_context_switch(), is put at
* the other end of the stack, and thus reusable by the stack when not needed
* anymore.
*/
void arch_new_thread(struct k_thread *thread, k_thread_stack_t *stack,
char *stack_ptr, k_thread_entry_t entry,
void *p1, void *p2, void *p3)
{
...
/*
* We are saving:
*
* - SP: to pop out entry and parameters when going through
* z_thread_entry_wrapper().
* - x30: to be used by ret in z_arm64_context_switch() when the new
* task is first scheduled.
*/
thread->callee_saved.sp = (uint64_t)pInitCtx;
thread->callee_saved.x30 = (uint64_t)z_thread_entry_wrapper;
thread->switch_handle = thread; //★ここで初期化している★
}
関数arch_switch() の第2引数 &old_thread->switch_handle(void ** 型)は切り替え元のスレッド構造体のswitch_handleのポインタです。switch_handleの値(たいていNULL)自体には意味がなくて、このポインタからold_threadが計算できることが大事です。
長くなってきたので続きは次回。
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CONFIG_USE_SWITCHを有効にするとビルドエラーが発生しますので、都度対処します。
最初はarch_thread_return_value_set() が二重定義だと怒られます。
../kernel/include/kernel_internal.h: At top level: ../kernel/include/kernel_internal.h:84:1: error: redefinition of 'arch_thread_return_value_set' arch_thread_return_value_set(struct k_thread *thread, unsigned int value) ^~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
USE_SWITCHを有効にした場合、arch_thread_return_value_set() はカーネル側で定義されるので、アーキテクチャ側では実装不要です。
// zephyr/arch/riscv/include/kernel_arch_func.h
static ALWAYS_INLINE void
arch_thread_return_value_set(struct k_thread *thread, unsigned int value)
{
thread->arch.swap_return_value = value;
}
// zephyr/include/arch/riscv/thread.h
struct _thread_arch {
uint32_t swap_return_value; /* Return value of z_swap() */
};
// zephyr/arch/riscv/core/offsets/offsets.c
GEN_OFFSET_SYM(_thread_arch_t, swap_return_value);
この辺りは要らないので #ifndef CONFIG_USE_SWITCHで囲って無効化します。
次はarch_switch() が未定義だと言われます。
../kernel/include/kernel_arch_interface.h:126:20: warning: 'arch_switch' declared 'static' but never defined [-Wunused-function] static inline void arch_switch(void *switch_to, void **switched_from); ^~~~~~~~~~~
この関数がUSE_SWITCHの本体です。他のアーキテクチャを見ると、arch_switch() はラッパー関数で、本体はアセンブラで書かれていることが多いようです。他の流儀に習っておきます。
// arch/riscv/include/kernel_arch_func.h
#ifdef CONFIG_USE_SWITCH
extern void z_riscv_switch(void *switch_to, void **switched_from);
static inline void arch_switch(void *switch_to, void **switched_from)
{
z_riscv_switch(switch_to, switched_from);
}
#else
...
肝心の中身はまた今度実装します。
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以前(2020年2月21日の日記参照)ご紹介したとおり、ZephyrのRISC-V向け実装はSMPに対応していません。Zephyrのマルチコア対応を有効にするコンフィグはCONFIG_SMPですが、有効にすると大量のエラーが出て、何から直したら良いのかわからなくなります。
コンフィグや実装を見た限りでは、下記の4つのステップで対応していくと良さそうです。
このコンフィグを有効にすその前に対応すべきコンフィグがあります。CONFIG_USE_SWITCHとCONFIG_USE_SWITCH_SUPPORTEDです。
// zephyr/kernel/Kconfig
config USE_SWITCH
bool "Use new-style _arch_switch instead of arch_swap"
depends on USE_SWITCH_SUPPORTED
...
config SMP
bool "Enable symmetric multithreading support"
depends on USE_SWITCH
既存の各アーキテクチャの対応状況を見ると、
// ARM
// Aarch32はUSE_SWITCHは未サポート
// AArch64はCortex-AのみUSE_SWITCHをサポート
// zephyr/arch/arm/core/aarch64/Kconfig
config CPU_CORTEX_A
bool
select CPU_CORTEX
select HAS_FLASH_LOAD_OFFSET
select USE_SWITCH
select USE_SWITCH_SUPPORTED
// ARC
// ARCV2はUSE_SWITCHをサポート
// zephyr/arch/arc/Kconfig
config CPU_ARCV2
bool
select ARCH_HAS_STACK_PROTECTION if ARC_HAS_STACK_CHECKING || ARC_MPU
select ARCH_HAS_USERSPACE if ARC_MPU
select USE_SWITCH
select USE_SWITCH_SUPPORTED
default y
他は載せませんがAArch64, ARC, x86_64, xtensaが対応しているようです。
Zephyrにはコンテキストスイッチが2種類存在しています。違いは下記の通りです。
CONFIG_USE_SWITCH_SUPPORTEDを有効にするにはarch_switchを実装する必要がありますが、RISC-Vではシングルコアもマルチコアもあり得ますから、CONFIG_USE_SWITCHを無条件に有効にするのは得策ではないと考えられます。
SoC側のKconfigで有効にしても良いですし、ユーザーにmenuconfigから選んでもらう手もあります。あまり悩んでも仕方ないので、ユーザーが選べるようにして先に進めます。RISC-VのKconfigにSMP対応かどうか?を選べるコンフィグを一つ追加します。
// zephyr/arch/riscv/Kconfig
config RISCV_SMP
bool "Does SOC has SMP"
select USE_SWITCH
select USE_SWITCH_SUPPORTED
有効にするとビルドエラーだらけになります。続きはまた今度。
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Steamのセールで3DMarkが意味不明なほど安くなっていたので、買いました。Steamは突然90%OFFとか平然とやってくるので、定価とは……??という気分になります。
新しいマシンを買う(もしくはパーツを買う)時に役に立ちそうです。
以前(2012年11月8日の日記参照)買ったヘッドフォン(audio-technica ATH-TAD500)が壊れました。
イヤーパッドは無事ですが、ヘッドバンドの合皮部分が破れて、内部のプラスチックの芯が見えています。まさかイヤーパッドより先にヘッドバンドが壊れるとは思わなんだ。
8年もの長きにわたって頑張ってくれて本当にありがたかったです。とても良い製品でした。
家や会社でいくつかヘッドフォンを使ってきてわかりましたが、長時間の使用において楽なのは圧倒的に「イヤーパッドが布地」のヘッドフォンです。合皮的な材質は汗で肌にくっついて嫌なのと、傷んでくるとバリバリ剥がれてきて不快です。
今使っているヘッドフォンの後継者としてはaudio-technica ATH-AD500X ですかね。上位グレードのATH-AD700X, ATH-AD900Xも布地のイヤーパッドで良さそうです。
しかし形が今使っているヘッドフォンとかなり似ているため、おそらく耳が痛くなる欠点も共通だろうと思われます。耳が痛いのは何とかしたいため、他社でも探すことにしました。
オーディオの世界は上を見るとキリがないですけど、10万とかするヘッドフォンは検討しません。違いが全くわからん。
SENNHEISER HD 599を買いました。Amazonで22,000円くらいでした。以前購入(2020年8月1日の日記参照)したSONY MDR-HW700DSもそうでしたけど、購入に勇気が要るお値段です。
付け心地はとても軽く、耳も痛くなりません。耳が痛いのは辛かったので、非常にありがたいです。あと、色が良いですね。ヘッドフォンはたいてい真っ黒けですけど、HD 599は白と茶という面白い色です。
難点は長時間使っていると頭のてっぺんが痛くなることです。ヘッドバンドは柔らかいクッションが入っていますが、カーブが自分の頭の形と合わないようです。
耳の問題が解決したと思ったら、今度は頭が痛くなるとは……想定外でした。うーん。
正直、音質は良いね!ってくらいしかわからんですが、ドスドスした低音や、キンキンした高音は目立たず、フラットな印象です。
キンキンした音は断然Superlux HD681B(2019年8月25日の日記参照)の方が強いですし、低音はaudio-technica ATH-TAD500の方がやや強いです。
鳴らないわけじゃなくて、目立たないバランスになっているだけなので、気に入らないならイコライザでいじれば好きなテイストにできます。能力は高いからカスタマイズ自由って感じですね。
今となっては、高級マスクになってしまったSHARP MA-1050が届きました。マスクはその辺で買えるので、もはやSHARPから購入する必要はないんですけど、まあ、一種の記念です。
参考までに、先日マツキヨで買った中国製のマスクは30枚入り1,000円程度で、1枚33円です。MA-1050は50枚入り2,980円(送料別)で、1枚60円ですから、かなり高級品の部類です。送料も含めると1枚80円近いです。
届いた箱を見たときに「異様に綺麗な段ボールだな……」って思いました。宛名シールも真っ直ぐはみ出ず貼ってあります。近所(千葉県)から送られていることも要因ですが、それにしても綺麗です。
開けてさらにびっくりしたんですけど、段ボールとマスクの箱が全く同じ大きさでした。包装材は省けますけど、入れにくそうですね。
DigiKeyくらいのマトモな海外セラーから買っても、段ボールなんて大抵ベコベコで汚ないし、宛名やインボイスも斜めに貼られてます。でも、中身が無事で、宛先に正しく届けば良いんですよ。段ボールは包装材なんですから。それ以上こだわる意味がありません。
日本人はどうでも良いところにこだわりすぎで、コスト高になってるんじゃないの……??なんてことを段ボールを片付けながら思いました。
Google翻訳で「October」を翻訳すると、正しい訳の「10月」が出てくるのですが、
残念ながら読みが間違っていて「じゅうがつ」ではなく「じゅうつき」になっています。惜しい!
「コミュニティ確認済み」のバッジが付いていますが、読みはチェック漏れ?ですかねえ?日本語は同じ文字でも読みが違って難しいですね。
目次: Zephyr
Zephyr RISC-V SMP対応にチャレンジしてます。
Zephyrは既に他のアーキテクチャでSMP対応されていますから、真似するだけの何がチャレンジなの?簡単でしょ?と思われるかもしれません。その考え方は間違ってないんですが、少なくとも私にとっては「余裕」と言えるほど簡単ではなさそうです。
RISC-V向けの実装はAArch32をパクっているようで「お前、シングルコアだろ?な?」的な実装がそこら中にあり、SMPを有効にした途端、猛烈にコンパイルエラーが出ます。
一個一個見てますが、先ほど、コンテキストスイッチから直さないとダメなことに気づきました。こりゃ先は長そうだ〜……。
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