RISC-V原典という本も買って読んでいます。どちらかというと頭から読む本ではなく、辞書的な本です。命令一覧の章はとても便利ですね。
RISC-V原典では「過去のアーキテクチャが患ったインクリメンタリズム」と他のアーキテクチャの複雑さを評していましたが、RISC-Vは出来たばかりなので「今」シンプルなのは当然だよね……などと思ったりしました。
RISC-Vは命令セットの独自拡張を許しているため、同じRISC-V CPUを名乗っていても「A社CPUとB社CPUでは、同じバイナリが実行できない」ことがありえます。
ARMやx86も互換性のないCPUは存在しますが、共通の命令セットが大きいためあまり問題にはなりません。一方RISC-Vは共通命令セットが小さい(RV32I、MMUなしのマイコンレベル)ので、非互換性で問題が起きそうですね。ARMでいうとCortex-A系とCortex-M系を混ぜて売るようなもので、混乱を招きそうです……。
このタイプの命令拡張方式で私が思い出したのはARMです。ARMも昔はARMv5TEJのように、対応する拡張命令をアルファベットで追記する、似たような方式を採用していましたが、ARMv6で拡張命令に全て対応したため、拡張命令方式は消滅しました。
私の予想としては、スマートフォン、デジタル家電、PCのような、比較的高性能な分野にはRV64GC(G = IMAFD、multiple, atomic, float, double)が共通命令セットになり、マイコン系にはRV32IかIMくらいが共通命令セットになる、辺りが落としどころかなと思います。
RISC-Vも「インクリメンタリズム」に陥る未来は避けられず、拡張に次ぐ拡張でゴチャゴチャになる未来を迎えると思いますが、20年後、
期待が大きいだけに、将来的にどうなるか、楽しみです。
どうやっても圧勝してしまう「最弱オセロ」(リンク)が話題ですが、実はその横に「強いオセロ」(リンク)もあります。URLから推測するにこちらの方が先に作られたように見えます。
名前に偽りはなく、ものすごく強いです。私のような素人の実力ですと50石(ほぼ真っ白)〜64石(全て白)で完敗します。終盤に一気にひっくり返され、全く勝てません。
まともにやっても全く勝てなかったので、どんな手でも良いから、1度でも勝てないだろうか?と試行錯誤するうちに、ちょっとしたクセが見えてきました。このAIは「終盤の大逆転」を重視していて、序盤〜中盤は石数が不利でも無視する傾向があります。
このクセを逆手に取り、中盤戦でとにかくゴリ押しして、白を全滅させる作戦を取ると、ごくたまに勝てることがあります。下記はその例です。
中盤で押し切れなければ負けです。20〜30局やりましたが、これ以外の勝ち方はできませんでした……。
目次: RISC-V
最近、何かと関わっているRISC-Vの理解のため、エミュレータを書いてみています。先日購入したHiFive Unleashed(2019年5月26日の日記参照)の1st ROMと2nd ROMを拝借して、Linuxがブートする辺りまで作るのが当面の目標です。
スクラッチから作ると辛いので、ARMv5のエミュレータememu(GitHubへのリンク)をベースにして改造して作っています。まがりなりにもARMv5が動いているんだから、RISC-Vも楽勝だろうと思いきや、世の中そんなに甘くありませんでした。
最初にコケたのはUnalignedな命令ロードです。RISC-VのC拡張をサポートする場合32bit境界ではないアドレスから、32bit命令をロードする場合があります。ARMv5ではUnalignedアクセス例外が発生します。
まだ完成していないので、現時点での感想ですが、RISC-Vの命令エンコードは比較的わかりやすい気がします。ただ、ブランチ命令のオフセットは、下記のような並びになっていて、不思議な配置です。
今まで見た中で一番見づらいものは、C拡張命令のバイナリです、これは異様に見づらいです。しかしC拡張の目的(命令長を削るため16bit長に無理して詰めている)からすると、仕方ないでしょうね。
目次: C言語とlibc
今まであまりCPUアーキテクチャの違いを感じたことはありませんが、除算命令を触っていたところ、アーキテクチャによってかなり動きが違っていて面白かったので、メモしておきます。
プログラムは下記のとおりです。
#include <stdio.h>
#include <limits.h>
void f(int a, int b)
{
printf("mul:%08x * %08x = %08x\n", a, b, a * b);
printf("div:%08x / %08 = %08x\n", a, b, a / b);
}
int main(int argc, char *argv[])
{
f(INT_MAX, -1);
f(INT_MIN + 1, -1);
f(INT_MIN, -1); //乗算、除算の動作は未定義
f(INT_MAX, 0); //除算の動作は未定義
}
初めに断っておくと、コメントを打った箇所については、C言語上の仕様上、動作が未定義です。つまり、どんなことでも起こり得ます。不定な結果が返ることもあるし、プログラムが停止することだってあります。
このプログラムをx86 (x86_64, Ryzen 7 2700), ARM (AArch64, Cortex A53), RISC-V (RV64GC, SiFive FU540) のLinux上でそれぞれ実行してみます。
#### x86_64 ####
mul:7fffffff * ffffffff = 80000001
div:7fffffff / ffffffff = 80000001
mul:80000001 * ffffffff = 7fffffff
div:80000001 / ffffffff = 7fffffff
mul:80000000 * ffffffff = 80000000
Floating point exception
#### AArch64 ####
mul:7fffffff * ffffffff = 80000001
div:7fffffff / ffffffff = 80000001
mul:80000001 * ffffffff = 7fffffff
div:80000001 / ffffffff = 7fffffff
mul:80000000 * ffffffff = 80000000
div:80000000 / ffffffff = 80000000
mul:7fffffff * 00000000 = 00000000
div:7fffffff / 00000000 = 00000000
#### RV64GC ####
mul:7fffffff * ffffffff = 80000001
div:7fffffff / ffffffff = 80000001
mul:80000001 * ffffffff = 7fffffff
div:80000001 / ffffffff = 7fffffff
mul:80000000 * ffffffff = 80000000
div:80000000 / ffffffff = 80000000
mul:7fffffff * 00000000 = 00000000
div:7fffffff / 00000000 = ffffffff
当然ながら、動作が定義されている演算は、どのアーキテクチャでも同じ結果です。当たり前ですね。
一方で動作が未定義の演算は、かなり挙動が変わります。
個性が出ますね。
先ほどの例でx86上でINT_MIN / (-1) の除算がクラッシュする原因はidiv命令の仕様です。
Intelの命令仕様書(Intel Architectures Software Developer Manual: Vol 2)のIDIV - Signed Divideのページを見ると、保護モード例外 #DEが発生する条件として、
この2条件が挙げられています。INT_MIN / (-1) は結果が32bitで表現できないため、後者に引っ掛かるわけです。
異常な演算に対して例外を発生させる設計思想なら分かりますが、乗算命令は異常な結果でも素通しなのに、除算命令は異常な結果だと例外発生します。片手落ちの不思議な仕様です。変なの……。
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